新梅田シティにほど近いJR東海道線支線沿いの一角に、毎週木曜20時~23時の3時間だけ開く一風変わった店がある。昨年11月にオープンした「はちみつとフリーペーパーのお店 はっち」(大阪市北区中津5)だ。
もともと工場だった古民家の1階を借り、壁を黒く塗り直して改装した。間口から奥へ細る珍しい間取り。屋内は約4坪。壁に書が飾られ、腰高の本棚にフリーペーパー30~40媒体が並ぶ。色付き蛍光灯に照らされて、何もかも黄色がかって見える。
「売り上げありきではないので、ふらりと来てくつろいでほしい。入りやすいように、暖かい日にはなるべく戸を開け放している」。5人いる運営メンバーの中心で、一般社団法人ワオンプロジェクト代表理事の田中冬一郎さん(41)は話す。
田中さんの本業は地方銀行の銀行員。融資業務などに携わる傍ら、2007年に若手芸術家のインキュベーションを手掛ける同法人を立ち上げた。「仕事では短期的な利益を考えるが、人生はもっと長い。利益で計れないものにも絡みたい」との思いからだった。
フリーペーパーとの関わりは東日本大震災がきっかけ。アナログメディアの良さを再発見し、自身も2012年にフリーペーパーを発行したが、時間の制約と配布場所の確保に困り、半年ほどで断念。「捨てられるだろうな、と考えながら手配りするのはつらかった」。場所を探すのに苦労した記憶が、今度は場所を作る動機になった。
店では月1回、蜂蜜料理のイベントと、「フリーペーパー研究会」を開催している。蜂蜜は運営メンバーの一人で若手養蜂家の比嘉彩夏さんが採蜜し、瓶詰めしたものを入荷する。「そもそも比嘉さんの活動拠点を作るために店を開いた。そこで、『自分は何をやろう』と考えてこの形になった」と田中さんはいう。
研究会では毎回フリーペーパーの発行人をゲストに招き、仕事について話してもらう。前回は12人が集まり、おのおのお気に入りの媒体を手にその魅力を語り合った。次回開催は2月25日20時に予定している。参加費は1,000円(1ドリンク付き)。
開店後は、予想したよりも反響があった。「東京や京都の専門店まで行かずにすむようになった」と、フリーペーパーの「コアなファン」が顔を出しに来る。ファンの6~7割は女性。蜂蜜にも興味があるという人が多く、田中さんは意外な親和性に驚いている。
「この店は人と人がつながれる場所にしていきたい」と田中さん。店内奥の壁には白字で「たくさんの小さな場所で、たくさんの小さな人々がたくさんの小さなことをすれば世界を変えられる」と書きなぐってある。ベルリンの壁の落書きを邦訳したもので、店のコンセプトをよく表す言葉なのだという。